前回のマチエールに引き続き、難しい美術用語を解説していきます。
今回の美術用語はヴァルールです。
ヴァルールは絵描きが良く使う言葉(特に年配の画家)で、一般の方はあまり聞き馴染みのない言葉でしょう。
「この絵はヴァルールが整っている。」
と、言った具合で使われるヴァルール。
ではヴァルールとは何なのか見ていきましょう。
ヴァルールはフランス語のvaleursですが、
英語でいえばvaleueです。
フランス語、英語共に、日本語に翻訳すると価値、価格等という意味になります。
価値?価格?
なんの値段だ?
と思われた方も多いかと思いますが、これが美術の世界では色価の事をいい、また色彩の調子に含まれている明暗の量を指します。
…マチエールの時に解説した時のように、活字にすると訳がわからないですね。
先程冒頭で書きましたが、ヴァルールが整っているとか、整っていないとかいうように使われる言葉です。
この場合「整っている」と言われれば、遠いものはちゃんと遠くにあるように見え、近いものは近くにある。
その作家は対象を見て、それを画面に変換して構成する能力、再現性が高いと同義になります。
各部分部分があるべき位置にあり、飛び出している色や沈んでしまっている部分がない。
自然を表現した場合には、絵の具の明度と彩度の調整が上手に表現出来ていて、少しも不自然さを感じさせず、目障りな色が無いということです。
線や面に遠近法があるように、色にも遠近法があり、一定のルールがあるということですね。
…。
ぽかーんとしているあなたも大丈夫ですよ。
誰も置いていきません。
ここからは実例を出して、実際にヴァルールが整っている絵と整っていない絵を見ていきましょう。
↓の2枚の絵画をご覧ください。
一方はヴァルールが整っている絵、もう一方はヴァルールが整っていない絵です。
片方にはヴァルールが整っていない絵になるように僕が手を加えております。
さて、どちらがヴァルールが整っている絵でしょうか?
考えてみて下さい。正解は↓にあります。
正解は上が整っている絵、下が整っていない絵になります。
上の絵画は地平線の山々や街並みが空に溶け、全体的に画面の調和がとれています。
一方、下の絵画は遠くの街並みに鮮やかな赤い建物があります。これにより主張が強くなりすぎてしまい、色彩、明度、彩度の調整が上手くいかずに画面を壊しています。
どうでしたか?
意識して比較してみると、こんなにも違いが出てきます。
ヴァルールを整えることはとても大事なことなのです。
ヴァルールは感覚
ヴァルールの勉強は、絵を描くときに足し算や引き算をして、計算によって色を調整する訳ではありません。
いや、卓越した画家は無意識のうちに目や頭で精密な計算をしていますが、これもあくまでも感覚です。
パーマネントレッドが80点、ピリジャンが60点、ウルトラマリンが40点などそれぞれに点数が決められていて、点数の高いものから手前に置いていけばヴァルールの整っている絵になる、といったものなら科学的で簡単なのですが、そうではありません。
あくまでも画面上の対比なのでそんなものは無く、ヴァルールが整っている絵を描けるようになるためには、沢山見て、沢山描いて、慣れて会得するしかありません。
こちらの作品のようにヴァルールは同系色の色の対比でいう場合は比較的優しいものです。
しかし違った色の対比でこれを会得するのはやはり経験で感覚を磨くしかありません。
さて、ここまでご覧いただけたなら、ヴァルールは個人の感覚であることが分かりますね。
そうです。
ヴァルールは科学的で明確なものがある訳ではないのです。
感覚である以上、沢山経験を積むしかないでしょう。
まとめ
今回のヴァルール、少し分かりにくかったですかね…?
なるべく読んでいただいている方に、子供や初心者の方にも分かりやすく伝えたいと色々悩みながら書いたのですが…どうでしょうか。
正直、ヴァルールに関しては以前から書きたいな…と思っていたのですが、二の足を踏んでいました。
というのも、ヴァルールは使う人によってかなり認識の違いがあり、もっと広い意味で使われる方、逆にもっと狭い意味で使われる方もいます。
昨今では抽象画や現代アートのそれのように知ってか知らずか、ヴァルールが狂っている絵、またはあえて崩していたりするようなものもあり、ヴァルールに関しての線引きはかなり曖昧になってきています。
まぁ、あくまでもその人個人の感覚なので、明確な答えが無い以上認識が難しいですよね。
その為、どう解説すれば一番良いか?と悩んで、なかなか書けませんでした。
でも、概ね今回解説した通りの認識でいれば、どんな場面でも対応出来るかと思います。
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました。
少しでもお力になれたなら幸いです。